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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

レイ&マーサ事件を題材にした3本の映画を観た

レイ&マーサ、1940年代後半アメリカ、結婚詐欺を仕事としているスペイン系の男と看護師をしている子持ちのやもめの女が、「ロンリー・ハーツ・クラブ」という文通雑誌を介して出会った。

2人は恋に落ち、といっても最初はどうやらマーサの一方的かつ熱烈な片想いであったらしいが、とにかく2人は協力して、結婚詐欺と、そしてそのたくらみの破綻を覆い隠すべく殺人を繰り返し、主に東部を行脚した。
 
※こちらが詳しいです↓
 
この実際の事件を映画化したのが、「ハネムーン・キラーズ」(1970)である。
監督のレナード・カッスルは、劇場用映画はこの一本しか監督していない。
 
 
VHSで持っていたのを、デッキがもはやうちにはないので、先日、思い切ってテープも「えい」とばかりに捨ててしまったのだが、手許になくなると未練が芽生える。
DVDでレンタルして久し振りに再鑑賞。
 
レイ&マーサは、カツラの詐欺師とデブの看護師というユニークなキャラでありながら、そこを押し出すことなく、2人がなぜ惹かれあったのかにも踏み込まず、加害者も被害者も同様に孤独な人間として描かれる。そこに過剰なロマンチシズムもない。
なので、切ない、というよりもわびしい、といった印象。
露悪的なゴシップ週刊誌的な作りではなく、最後まで、人物と彼らの起こした行為とを淡々と描写していくとこに、凛としたものを感じる。
マーラーの曲が少々仰々しいが、ラストにまた流れると、なんだか人生のひとつの真実を目撃したような気になる。
孤独があとから沁みてくる。余韻の深い作品。
 
さて、この「ハネムーン・キラーズ」のリメイク、というわけではないようだが、同じレイ&マーサ事件を題材にしたアメリカ映画があるのを今回初めて知ったので、これも借りて観てみる。
「ロンリー・ハート」(2006)。
 
 
こちらはジョン・トラヴォルタジェームズ・ガンドルフィーニ(先日亡くなられてしまいましたね)、ジャレッド・レトサルマ・ハエックローラ・ダーン、とキャストが豪華。
レイ&マーサを追う刑事(ジョン・トラヴォルタ)が主役で、その同僚(ジェームズ・ガンドルフィーニ)が語り部という構成。
なんでも監督が、本作の主人公である、レイ&マーサを実際に追い詰めた刑事の実の孫だという。
よっぽど身内贔屓な作品になってるのでは、と心配したが、まあ、バランスよく仕上がっている。やもめ女性の心の隙間に忍び寄るレイ&マーサの所業が、妻を自殺で亡くした刑事の孤独、自責を浮かび上がらせる。
レイ&マーサ事件はやや遠景に置かれる。2人を演じたジャレッド・レトサルマ・ハエックは熱演だったけども、どちらも美男美女過ぎやしないか、と。
ラストの電気椅子での処刑シーンがディテールを丁寧に描いていて好感を持つ。
本筋とは逸れるが刑事の恋人役でローラ・ダーンが熟女の色香を漂わせ、作品にいい艶をもたらしている。
 
と、さらにもう一本、レイ&マーサ事件を題材にした作品がある。
これもついでだ、借りて観てみる。
「ディープ・クリムゾン 深紅の愛」(1996)。
 
こちらはメキシコ映画。「ロンリー・ハート」のような変化球ではなく、レイ&マーサの二人にスポットを当てている。ただ、舞台がメキシコに置き換えられているので、変化球っちゃ変化球か。
マーサは、コラルという名前になっているものの、実際のマーサに似せて太目の女優を起用。
「ハネムーン・キラーズ」では性的な要素は極力省かれていたが、こちらはラテン系だけあってかやや濃厚。マーサ=コラルは、看護しているよぼよぼのじいさんにも色目を使うほどに色情的。ムッとするような暖色系の色づかい、レイの額を伝う汗、コラルの赤いドレス、などもついそちらに結び付けたくなる。
結婚詐欺師を好きになった因果で、彼のそばに常に付き添っていながらも、恋人や妻とは大っぴらに言えず、彼が他の女といちゃいちゃするのを見せつけられては、嫉妬に苦しめられる、というマーサ=コラルの煩悶、詐欺と殺人行脚を続けるうちに惹かれあう二人の愛情、どことなく演歌的な情の世界をねちっこく描いていて、そういう意味では「ハネムーン・キラーズ」とは逆のアプローチ。
ただ、そうした世界を描くなら、マーサ=コラルがレイに惹かれる理由をも少し深く表現して欲しかった。マーサ=コラルが子どもに抱く母性愛とレイに抱く一途な愛情との関連もいまいち噛み合ってなかったような…
レイのかつらへの執着はこの作品が一番激しい。
ラストの銃殺シーンだけ、なぜかマジックリアリズム的な不条理感が漂う。これが妙でおかしかった。
 
同じ題材でもこれだけ違った特色が出るわけで、どれがよくてどれが悪いとは一概には言えないが、まあ、「ハネムーン・キラーズ」がやっぱり後に残る、かな。