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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

ジャレッド・ヘス監督「Mr.ゴールデンボール」が素晴らしい!

傑作、という言葉を惜し気もなく使いたくなる一本。あくまでも個人の感性に拠る、ということを言い添えてはおくけども。

ジャレッド・ヘス監督「Mr.ゴールデンボール 史上最低の盗作ウォーズ」はこんな話、SF小説好きの内向的な主人公が、自作のトンデモエログロSF小説(といってもエログロの程度が小学生レベル)を、憧れのSF作家にパクられ、胡散臭いインディーズ映画製作者の手でズタボロに映画化され、と散々な目に遭うコメディ。


こうあらすじを紹介すると、かなりエグい感じのドタバタコメディのように思われるかもしれないが、「ナポレオン・ダイナマイト」の監督であるジャレッド・ヘスらしく、過剰にカリカチュアすることなく、寝相の悪い子にそっと毛布を掛け直してやるような温かさに満ちている。

ナポレオン・ダイナマイト」はスケッチ風な作りで、良くも悪くもおかしなエピソードが連なってるというだけの作品だったけども、今作は虐げられ続ける主人公ベンジャミンが最後に逆転の一発をお見舞いするという、いかにもエンターテイメントなオチになっている。割と定石な仕上がりにジャレッド・ヘスの成長を感じる。

といっても、かなり観る人を選ぶヘンテコなコメディには違いない。

逆転の一発をお見舞いする、と書いたけども、実はこの一発はベンジャミンが繰り出すパンチじゃない。
微笑ましくもあり、紙一重でキモくもある母子愛の賜物なのである。
主人公は全編を通じてほとんど振り回されてばかりで何もしない。
でも、この主人公の関わっていけなさ、というのがたまらない。ツボである。母親は過剰に愛情を注ぐ、憧れの作家や作家養成スクールで出会った友人は勝手に自作を改竄する、しかしどこまでもベンジャミンは受け身なのである。

アメリカ映画でここまで行動を起こさない主人公を見たことがない。
悲惨な事態は自分の力で乗り越えてかなきゃいけない、というね、「自分を信じろ」というテーマばかりでうんざりもする近頃だけども、こういう棚ぼた的な作りごとが、なぜだか不意に感動を呼んだりする。

ところでこの作品は、時折挿まれるベンジャミンの書いた「イースト・キングス」というトンデモSF小説の映画内映画が抜群にチープで素晴らしい!

この「イースト・キングス」って話が、ブロンコというどこぞの隊長が悪者に捕まって、クローン製造のためにキンタマ片方取られて、それでもなんとか逃げ出しハゲ頭の姉弟を味方につけ逆襲に転じる、ってよくわからん。
さらには、鹿型の偵察機が空飛んだり、ミサイル発射したり、ビーフキノコを食べたらピンクのゲロが出たり、サイクロプスがバギーカーで追いかけてきたり、とナンセンス爆発。
くすんだような色調が、チープさとあいまって、ロシアの埋れたSF映画みたいで楽しい。

SF小説内だけでなく全編を通じて、ゲロやキンタマ(だから邦題があんなわけで)、ウンコなど小学生男子が喜びそうな低俗というより幼稚なギャグに満ちている。
この幼児性を許せてしまうのだ。
ここがこの作品を好きになるか受け付けないかの分水嶺かな、と。

とにかくここ最近のコメディでは、最もツボにはまった作品。
ジャレッド・ヘスの作品の中でも一番いい。

ナポレオン・ダイナマイト」でも洒落たオープニングタイトルだったけども、本作では架空のSFのペーパーバックを模した作りになっていて、これもにくい。
ヒーリングミュージックの大家らしいアーティストをフューチャーした音楽も、ダサさとかっこよさの絶妙な線をついている。
ベンジャミンのお母さんのネグリジェのデッサン画も、個人的には痺れる。

ウェス・アンダーソンのセンスよりも、ジャレッド・ヘスのセンスの方が好きかもな。