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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

コーエン兄弟を復習する②〜実話ではない「ファーゴ」〜コーエン流トールテールズ

「ファーゴ」の冒頭、「この話は実話である」と出るが、これがコーエン兄弟特有のギャグだかなんだかわかりづらいフェイクだというのは今では広く知られている。


コーエン兄弟の、言葉は悪いが、こういうしれっと嘘をつくところが実は好きだ。


コーエン兄弟作品の多くは、冒頭に、本編とはあまり関係のない人物が語り手として、これから始まるストーリーのさわりというのかプロローグを語る。
ビッグ・リボウスキ」「ノーカントリー」、他にもあったと思うが、今出てこない。


このもっともらしい演出が、作品全体に妙な寓話めいた、もしくは神話めいたと言ってもいいような効果を与えている。
「ファーゴ」冒頭の「この話は実話である」というのも同様。


「ファーゴ」には劇中2度ほどだったか、斧を担いだ巨大なおっさんの人形が出てくる。この人形の男がポール・バニヤンである。
ポール・バニヤンはアメリカのトールテールズ(またはトールトーク)を代表する、架空の大男で樵を生業としてる。数々の眉唾な伝説を持つらしいが、勉強不足でその辺何も読んでないからわからない。
しかし、まあ、「ファーゴ」はおそらくコーエン兄弟流のトールテールズなのだ。


さて、このトールテールズ、単にほら話といってよいのだけども、実に様々あって、例えば南京虫がいかに丈夫かというのを庶民が方言丸出しで言い合ってる。中でも極めつけの南京虫は、熱されてドロドロに溶けた鉄の中に飛び込み、そのまま鉄鍋に鋳造されてしまったものの、数年経って鍋が割れたらそこから飛び出してきたのがいる、だとか。


そんな話がいっぱい載ってる「アメリカほら話」はなかなか楽しい。

アメリカほら話 (ちくま文庫)

アメリカほら話 (ちくま文庫)



これも有名らしいほら話のひとつ、ミシシッピ川に伝説的船乗りマイク・フィンクという男がいた。
このマイク・フィンクの逸話のひとつに、浮気をした妻を山のように積んだ枯葉の中へ寝かせ、そこへ火をつけるというものがある。
妻は、逃げ出せば夫に撃たれると思ってじっと火の中でこらえる。しかし、いよいよ服に火が付くという段になって、燃え盛る枯葉の山を飛び出し、そばの川へ飛び込んだ。
マイク・フィンクは妻に凄んでこう言った、今度他の男に色目でも使ってみろ承知しねえぞ、とかなんとか。


ちょっと強引かもしれないが、マイク・フィンクという名前からの連想で、つい「バートン・フィンク」を思い出さずにはいられない。


バートン・フィンク」ではホテルに火を放つのは、殺人鬼カール・ムントことチャーリー・メドウズではあるが…
燃えさかる枯葉の山とハリウッドのホテル。
俺のねぐらに勝手に上がり込み、俺の部屋の音がうるさいと文句をつける、お前はいったいなんなんだ、とバートン・フィンクを脅すカール・ムント。
カール・ムントはバートン・フィンクを見逃すが、火のまわったホテルを出た彼の行き先は川ならぬ海岸だ。
そこで彼はハリウッド社会で飼い殺しの状態になることが暗示される。
燃えさかるホテルを出ても、ハリウッドから抜け出せない。
最高傑作と自負する脚本を仕上げても、ハリウッドは認めてくれない。


どことなくマイク・フィンクのエピソードと通ずるところがないだろうか?とか。


トールテールズを発想の源泉のひとつとするコーエン兄弟が、この話を知らないはずがないだろう。
と勘繰りたくなる。


そんなわけで、コーエン兄弟作品をより深く楽しむために、または読み解くためには、アメリカのトールテールズを学ぶ、という切り口があるのだなと思うこの頃。