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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

フレデリック・ワイズマン特集に行ってきた~ワイズマンの集大成「メイン州ベルファスト」

1/31~2/13までシネマヴェーラ渋谷で開催されているフレデリック・ワイズマン監督の特集上映「偉大なるフレデリック・ワイズマン」へ行ってきた。

ワイズマンは知る人ぞ知るドキュメンタリー映画作家である。

1930年生まれだからなんと今年85歳を迎える。

イーストウッドゴダールと同い年!)

2014年の新作「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」も現在渋谷Bunkamuraル・シネマで公開中の、現役の監督である。


映画『ナショナルギャラリー 英国の至宝』オフィシャルサイト

いきなり脱線してしまうけども、2015年上半期映画のトピックの一つは、1930年生まれの大物3人の新作が揃って劇場公開される(イーストウッド「アメリカン・スナイパー」、ゴダール「さらば、愛の言葉よ」)ということである。

 

 

さてワイズマンにもどる。日本でも劇場公開された近作「パリ・オペラ座のすべて」「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」、それに公開中の新作だけ並べるとどこかお高い芸術畑のドキュメンタリー作家かなと思われそう。

しかし寡黙かつ苛烈な観察者であるワイズマンの真の面白さに触れたければ、むしろ新作よりも特集上映にこそ足を運ぶべきである。

精神異常犯罪者を収容する矯正院を題材にした「チチカット・フォーリーズ」、牧場の牛が私たちの口に運ばれる牛肉になるまでを捉えた「肉」などは正視に絶えない映像もあり、鑑賞後に人それぞれに様々な問題提起を呼び起こす作品である(「肉」は今回の特集上映のプログラムにはないのだが)。

ワイズマン作品はこうした観たい作品に限ってソフト化される気配もないので、こういう特集が組まれた時はなるべく足を運ぶようにしたい。

で、今回は2週間しか期間がないので、有休を取ってなんとか足を運ぶ。

それでも小遣いの中からやり繰りして観に行けたのは「メイン州ベルファスト」「ストア」「少年裁判所」の3本のみ。

 

 

ワイズマンのドキュメンタリー作品の大きな特徴は、一切のナレーション・BGMがなく、ただひたすら目の前で起こっていることを収めるということ。

そして2時間を超える尺がざらで、作品によっては4時間、6時間といったものまである。とにかく長い。

つまり眠くなる。

正直に告白してしまえば、今回観た3本で少しも寝ずに観通した作品はない。

それでも決してつまらないわけではない。

 

 

「少年裁判所」のラストは、強盗の運転手役を務めた少年の裁判で「”正義”って何なんだ?」という問題を提起する非常にドラマチックなエピソードに長々と費やされる。これはこれで1本の見応えある社会派ドラマのようである。

勿論そんなドラマチックなシーンばかりではない。

むしろ本当に面白いのは、「少年裁判所」でいえば、そこで働く人々の日常の仕事ぶりだろう。

補導してきた少年を連れてくる警官、家出した少女に説教する保護司、非行少年を次々と裁く裁判長。

ワイズマン作品では、彼らは少年少女を救う清廉の徒として描かれるわけでも、逆に彼ら彼女らの未来を潰す無理解な大人として描かれるわけでもなく、そこでの仕事を淡々と、いや着々と、いや誠実にこなすひとりの人間として切り取られている。

働く人間として誰とも、私ともなんら変わりない存在。

普通の人々。

普通の人々の生活をただ観ていると、面白くはあるがやっぱりどこか眠くもなってくる。

 

 

うとうとしながら観るのが好きな私には、ワイズマン作品を批評するだけの資格はないのは勿論、感想すらまともに書けない。そもそも本数もそれほど観ていない。

それでも少しでも「ワイズマンのドキュメンタリー面白そう」と思っていただけるような方がいるのなら、「メイン州ベルファスト」をお勧めしたい。

1999年カラー作品。これが4時間の大作。

長いけれどもこの作品はワイズマン作品のいいとこ取り、言い換えれば集大成的作品である。

それまでのワイズマン作品で取り上げられている教育、福祉、病院、犯罪、動物などが全て入っている。

早朝ロブスター漁に出る漁師たち、裁判所で次々裁定を下される住民たち(酔っぱらい運転、ドラッグ所持、万引きなど)、教会でのお祈り、メルヴィルの「白鯨」を講じる高校教師、老人ホームでのピアノ演奏会、きつねの毛皮を剥ぐ職人(?)などなど。

誰にとってもそれがルーティーンな生活。

タイトルが示すようにメイン州ベルファストという町を舞台にしているが、この作品はベルファストを描いていながら漁業が主要産業だというベルファストの町の全容は結局よくわからないし、そこは重要ではない。

私たちひとりひとりはこんなようにして生きている、ということを優しくかつ厳しく、また否定も肯定もせず描いている。

私自身は当然ながら私自身しか生きることができないが、この作品で様々な生活の在り様、働き方を観ると、なんだかひとりひとりが決められたロールモデルを演じているような、RPGの世界でも見せられてるような錯覚を覚える。

いや、この世界は巨大な精神病院で私は私を演じている病人なのかもしれない、というような錯覚すら。この先は「マトリックス」のようなSF世界へ通じてしまいそう。

 

 

初心者がいきなり観るには長さに辟易してしまうかもしれないが、多少寝てしまっても問題ないと思う。これさえ観ておけばワイズマン作品の醍醐味が大体わかる。

ぜひワイズマンは2~3年に一度はどこかで特集上映してもらいたいものである。

今回見逃した「セントラル・パーク」「高校2」「動物園」、さらに観るのがやや恐ろしい「臨死」「霊長類」などまだまだ観てないのがあるので。