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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

「歩いても歩いても」雑感〜生と死はマーブル模様みたいに混じってる、などと迂遠に

マッドマックスFR」の熱狂がいまだ続いてるけども、静かに観客を魅了してる日本映画があって、それが海街diary」である。
実は「マッドマックスFR」を観る前に、「海街diary」を観てはいたのだけども、是枝監督作品としては前作「そして父になる」や「誰も知らない」に比べると、かなり穏やかな作品で、いや、是枝監督作品はどれも表面上は穏やかだが、その下に…という内なる声が打ち消しに追いかけてくるが、本作はなおのこと、事件らしい事件が起きないので、なんとなく印象がぼやけて、というかどう捉えてよいかわからなくてそのままにしていた。
とにかく広瀬すずのアイドル映画という側面ばかりに気がいってしまっていた。
彼女を捉えるカメラの美しかったこと。


海街diary」を絶賛する声とともに、是枝監督の過去作「歩いても歩いても」を挙げて「これも傑作」との声もちらほら目にし、こちらは未見だったので早速借りてきて観てみました。
今回は「海街diary」ではなく「歩いても歩いても」についての雑感です。

歩いても歩いても [DVD]

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何か勘違いをしていて「歩いても歩いても」って国分太一主演の落語家の話のやつだよね、と思っていたら、それは「しゃべれどもしゃべれども」であった。
まあ、勘違いするだけの理由がないことはない。


それはそれとして、「歩いても歩いても」はこんな話。
子持ちの未亡人と再婚したというのに失業中の40前後の良多(阿部寛)は、兄の命日に妻子を連れて実家へ帰省。
姉ちなみ(YOU)の家族も集まり、皆で食事を作ったり、食べたり喋ったり、他愛のない家族団らんを過ごす。
と書くと、なんだか淡々としていて、「なにげない日常って愛おしい」とでもいうお話かしら、と思われてしまいそうだが、とんでもない。


実は長男が亡くなった原因がこの家族にしこりを残していて、表向きは命日イコール家族行事というように皆には受容されているんだけども、その裏には亡くなってから15年も経とうというのに、いや、15年経とうとも、いまだに消えない思いが残っている。
長男は海で溺れる少年を救けて、自らは命を落としてしまったのだ。


そのことがエモーショナルに描かれることはない。
家族の会話の端々から長男が亡くなった事情、そして長男にかけられていた期待が浮かび上がってくる。


どこにでもありそうな帰省の一場面に漂う死の匂い。これってもしかしたらおばあちゃん家特有の匂いってやつかしら、と。
なにげない会話、ちょっとしたやりとりに「あるある」を越えた恐ろしさがふっと現れる。
取るに足りないような日常の中から、こんな恐ろしい瞬間をよくすくい取ったなあ、と唸ってしまう。
恐ろしいばかりではなく、ささやかだけど幸せな瞬間やほっこりするような瞬間もあるのだけども、これは個人的な感性によるのか、とにかく鑑賞直後の感想は「恐ろしい」としか出てこない。


とりわけ良多の年老いた母が、時折ふっと見せる残酷な面に鳥肌が立つ。
普段は明るくて楽しい、一家のムードメーカーである母が、長男に救けられて成長した青年(これがまたいかにも何の取り柄もなさそうな凡庸な青年)を毎年命日に招待する理由は衝撃的である。
演じる樹木希林の素朴さがまたその衝撃をより強める。


この衝撃のシーンがあんまり印象深かったので、うちの奥さんに話してみたら、「でもそれって当然だよね」みたいな反応が返ってきて、我が子に対する母の思いの強さをまざまざと思い知らされた。
僕の胸にはあの陳腐なセリフ、「女って恐ろしい」がふと浮かんだ。
それとも自分が薄情なんだろうか?


本作を観て是枝作品に対して抱いていた、なんとなくもやもやしたものの正体がわかった気がした。
それは、生と死はアンビバレントな観念ではなく、生は死を、もしくは死は生を内包していて、入り乱れマーブル模様のようになっている、というようなことである。
ただハッピーなだけの人生はないし、とんでもなく不幸な人生もない。
普通の生活の中に当たり前に死はあり、それがあって生は生らしくある。
ああ、説明が下手でもどかしい。


私は一本の鉛筆である。
私が有用な存在であるためには、身を削られなければならない。
削りカスを出し、芯を剥き出しにし、芯を擦り減らし、また身を削られ、そうやって役目を果たす。
それが鉛筆としての生き方なのである。
生きることは死に行くことである。


こんな詩じみた表現で伝わるのだろうか?


「歩いても歩いても」に見て取った生と死とのマーブル的混交を是枝作品のベースにあるものすると、3つの葬式(内1つは法要)を描いた「海街diary」の見方もだいぶ変わってくる気がする。


と、だいぶ遠回りしたけれども、要は「歩いても歩いても」を観たことで、「海街diary」を華やかな女優が4人も共演していて目に楽しいね、という感想から一歩踏み込むきっかけになったなあ、ということが言いたかったのです。


どちらもまた見直したいなあと思います。