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船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

「幕末太陽傳」を観た

川島雄三監督の「幕末太陽傳」を観ました。

幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション

幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション

 

 

「しとやかな獣」があまりにも面白かったので、川島雄三監督作品をもう少し観たくなり、近所のTSUTAYAで探すと「幕末太陽傳」「愛のお荷物」「暖簾」は置いてありました。 

kamonpoi.hatenablog.com

 

川島雄三は45歳で他界しているけれども、生涯に51本もの作品を監督している。

たかだか4、5本観たくらいで「川島雄三というのは…」とはとてもじゃないけど言えないね。言うつもりもない。

 

 

幕末太陽傳」は川島雄三フィルモグラフィーの中では恐らく「しとやかな獣」「洲崎パラダイス 赤信号」と並んで最も有名な作品のひとつであるだけでなく、日本映画史に残る傑作だとも言われている。

2011年末に日活の100周年を記念してデジタル修復版が上映されていたそうですが、その時はまったくスルーでした。

今回はそのデジタル修復版をDVDレンタルしてきました。

 

 

文久二年(1862年)、東海道品川宿に相模屋という繁昌している遊郭がある。

ここに一文無しの佐平次という男が仲間とやってきて無銭飲食を働き、そのままひとり居残って遊郭の問題を手際よく解決していくドタバタコメディ。

相模屋の看板女郎こはるとおそめのつばぜり合い、おそめと客の心中騒ぎ、相模屋の主人夫婦とその道楽息子との勘当騒ぎ、道楽息子と借金の肩代わりに奉公に出された娘の駆け落ち、金も払わず居残る高杉晋作尊王攘夷派の面々は密かに英国公使館の焼き討ちを計画する、といくつものエピソードが交錯しながらも、がちゃがちゃすることなくテンポよく、スマートに描かれる。

 

 

とにかく脚本が素晴らしい。

ぼくは教養不足であとから調べて知りましたが、このエピソードのほとんどは落語の廓噺(くるわばなし)というジャンルの名作「居残り佐平次」「品川心中」「三文起請」「お見立て」といった話がベースになっているということ。

さらにここへ歴史上の事件、英国公使館焼き討ち事件を絡めてくるのだから、まあ、よくこれらをひとつの脚本にまとめ上げたものだと感嘆!

前半わりといろんなエピソードが並列的に描かれるのだけども、それが英国公使館焼き討ち計画実行に絡んで収束していくところなんか魔法のようですよ!

 

 

脚本も素晴らしいのですが、主人公居残り佐平次を演じたフランキー堺の軽妙さがまた素晴らしい。

口八丁手八丁でトラブルを易々と解決していく才気走った佐平次に、案外ほんとにこんな人物が歴史の裏で活躍していたのかも、と思わせるリアリティを与えている。

廊下をちょこちょこ走り回ってるだけでなんかおかしいし。

こういう身体のアクションで笑わせることのできる俳優は最近あまりいないような。

 

 

コメディではあるのだけども、佐平次が胸の病を抱えていやな咳をしているのに象徴されるように、どことなく死のムードが漂っている。

(宿痾を背負っていた川島雄三の姿を重ねてみたくなる)

そもそも佐平次はどういう理由で居残り稼業をしているのかはわからない。

遊郭を舞台に性と死とが交錯した人間模様を描く川島雄三の視線は、「しとやかな獣」と同じようにやはりシニカルでクール。

ここに惹かれますね。

 

 

佐平次がラスト遊郭をこっそり抜け、墓地から逃げ出していく姿に、「死ぬとわかっていても、そう簡単には死なないよ」とでもいうような厭世観を突き抜けたポジティブさが感じられて、感動がこみ上げます。


映画『幕末太陽傳』予告編 - YouTube