読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

船橋リズムセンター

「野に在って野に下らず、俗に在って俗に流されず」。こだわりなし、怒りなし、浅く、ぶれつつ、無着陸、、、

続々・ビリー・ワイルダー作品を勉強中です〜「深夜の告白」「第十七捕虜収容所」

ビリー・ワイルダー監督の勉強も大体これでおしまい、ということにするつもりで、「深夜の告白」(1944)と「第十七捕虜収容所」(1953)を観ました。

前者はサスペンス、後者は戦争ドラマ。どちらも面白かったです。

 

 

「深夜の告白」、悪女サスペンスの古典

「深夜の告白」は、ワイルダー初期のヒット作で、原作は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で有名なジェームズ・M・ケインの「殺人保険」という作品です。

殺人保険 (1962年) (新潮文庫)

殺人保険 (1962年) (新潮文庫)

 

 

やり手の保険セールスマン、ネフ(フレッド・マクマレイ)が顧客の女房フィリス(バーバラ・スタンウィック)に一目惚れしてしまい、フィリスはネフをたぶらかして、ふたりで協力して夫の保険金殺人を実行する、という話。

悪女サスペンスの古典とも呼ばれているそうです。

でも品のいいワイルダーですので、扇情的な悪女ではない。足首を飾るアンクレットといった小物を使ってほのかなエロチシズムを醸す程度です。

 

 

ネフとフィリスは計画通りに事を運ぶのですが、ネフの同僚であるキーズ(エドワード・G・ロビンソン)が蛇のようなしつこさで警察が事故として処理しようとしていたこの事件を調べ上げ、保険金目当ての殺人事件であることを突き止めます。

コミカルでありながら勘の鋭い探偵のような役回りでじりじりとネフを窮地に追い込むキーズを、エドワード・G・ロビンソンが存在感たっぷりに演じています。むしろ彼が主役くらいの感じ。

結局ネフはフィリスに利用されていただけであるのを知り、キーズに自らの過ちを詫びます。ビリー・ワイルダーはあまりエモーショナルな演出をしませんが、最後は男の友情で締めるあたりなかなかグッとくる作品です。

マッチという小道具をうまく使って、ふたりの友情を演出しています。なるほど勉強になります。

 

 

ただ、ぼくがちょっと「のれないな」と感じたのは、セリフがやけにキザなところ。

本作はネフの独白による回想で構成されているのですが、その独白の中に「スイカズラの匂いがして云々」とか、ネフがフィリスと初めて会って口説くシーンも洒落た比喩を用いてるのがなんか小説っぽくて苦手。

これって脚本にレイモンド・チャンドラーが関わってるのが影響しているのか、それとも原作通りなのか、そこはよくわかりません。

でもキャメロン・クロウワイルダーにインタビューした「ワイルダーならどうする?」*1の中でワイルダーは、

レイモンド・チャンドラーからは、まずいちばん最初に、真のセリフとはどういうものかを学んだ。彼に書けるのはそれだけだったから。それと独特の叙述。~中略~でも彼には構築する力はまるでなかった

と語っています。

どうもキザなセリフはチャンドラーが書いたんじゃないかな、という気がします。

 「構築する力はない」と言いきってるのがおかしい。

 

 

ところで、原作のジェームズ・M・ケインもレイモンド・チャンドラーもいわゆるハードボイルド小説の立役者と知られていますが、ライバル(?)の作品のシナリオ書きをするというのはチャンドラーにとっては屈辱だったんじゃないだろうか?とか思ってしまいます。

前掲書によると「彼(=チャンドラー)にはどこか片手間仕事の意識があったようだ」「彼はジェイムズ・ケインを嫌っていた」なんていうワイルダーの発言もあります。

本作とは別にこういう裏事情もなんだか他人事で楽しいです。

 

深夜の告白 [DVD]

深夜の告白 [DVD]

 

 

 

「第十七捕虜収容所」、自分の流儀を貫く男の生き様が気持ちいい

「第十七捕虜収容所」は、戦争ドラマではありますが、タイトル通り捕虜収容所を舞台にしているので、戦場での激しい戦いのシーンは一切ありません。

第二次大戦下、ドイツの捕虜収容所に収容された米軍兵たち。脱走計画が失敗に終わったことで、身内にスパイがいるのではという疑惑が浮上する。真っ先に嫌疑をかけられたのは、ドイツ兵に賄賂(=煙草)を渡しては酒や女を手に入れ気ままな捕虜生活を謳歌しているセフトン(ウィリアム・ホールデン)。

セフトンは疑惑を払拭するために、ひとりで本当のスパイを探し出すことにする。といった話。

ワイルダー作品で女性が出てこないというのはちょっと寂しくはありますが、新鮮な感じもします。

でも決して男臭い戦争ものでもない。

ハリーとアニマルというお笑いコンビみたいなふたりが常に凸凹なコントを繰り広げていたり、クリスマスにむさい男たちがダンスを踊ったり、ワイルダーらしいな、と最近ワイルダーを勉強したばかりなのに偉そうに思ったりします。

ワイルダー作品はサスペンス作品でもそうですけど、最初から最後までしかつめらしくシリアスに進行することはなくて、コミカルなキャラが登場して、緊張と緩和をバランスよく持ち込んでいると思います。

 

 

本作は「スパイは誰だ?」といったフーダニット劇の面白さもありますが、中盤過ぎに正体が明らかになると、セフトンがいかにしてこの真のスパイに一泡吹かせるのかが見所になります。

セフトンは誰からも嫌われているので、いわばダークヒーローみたいな感じなのが面白いです。結局彼は最後まで自分の流儀を貫き、他の捕虜たちと打ち解けることもなく、戦争におけるイデオロギーの対立からも距離を置き、ただ個人でしかないという立場であるのが気持ちいい。

 

第十七捕虜収容所 [DVD]

第十七捕虜収容所 [DVD]

 

 

 

それにしてもワイルダー作品は観て思うのは、ほんとどれも傑作揃い!

どれをとっても代表作といえるものばかりのフィルモグラフィってすごいな。

*1:買ってしまいました。これから少しずつ読みます

 

ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話

ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話